策定企業 事例紹介
生野金属株式会社 企業概要
企業名 | 生野金属株式会社 |
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従業員数 | 74人(平成25年12月現在) |
事業内容 | 食品用の18リットル缶、美術缶等の製造、販売 |
沿革 | 昭和22年 大阪市生野区にてブリキ製缶業で創業 昭和56年 高石市の現在地に工場を集約し完全移転 平成9年 テーパー缶の製造技術に関する特許「角缶の製造方法」を取得 平成11年 日本工業規格表示認定工場(金属板製18リットル缶)の認定 平成14年 ISO9001を認証取得 |
生野金属株式会社 インタビュー
BCPの策定まで
生野金属株式会社は、JIS規格の認定を受ける18リットル缶と美術缶などの一般缶を製造しています。製品の約7割が食用油やお菓子などの食品用であるため、環境面で高い品質が求められます。このため、品質マネジメントに力を入れ、西日本の業界ではISO9001の認証を最も早くに取得するなど、顧客満足の向上と取引先の声に迅速に応えています。製品は、缶本体のほか持ち手や座金等の構成部品が多種多様でアイテム数が多く、製造ラインは、18リットル缶で2本、一般缶で10本を超えるラインを有し、生産には、一定の経験と熟練が求められます。
製缶業界は、地域の商圏を当該地域の企業が支える特徴があり、同社の80から100社ある販売取引先の多くが泉南や神戸などの近畿圏に集中しているため、物流機能を含めた供給責任の重要性を強く意識せざるを得ない面があります。BCPを策定することになった直接の契機は、東日本大震災後に大手取引先から供給責任の具体的な方針を問われたことです。取引先は、非常事態が発生した際に1週間で復旧するBCPの方針・対応策を提示し、同社が同様の方針を持ち得るかどうかたずねてきました。
事業所が埋立地に立地し、阪神・淡路大震災時に液状化を経験していたため、震災等に対する危機意識がないわけではありませんでしたが、取引先の要請は、それまでの場当たり的になりがちだった対応を改め、具体的な検討や行動を始める契機になりました。
また、BCPの取組を促進する企業風土の醸成につながっていると考えられるのは、クリーンデーという土曜日の出勤日に、清掃活動と安全に関する意識を高める教育活動を定期的に実施していることです。例えば、年1回は高石警察署による交通安全教育を継続するなど、様々なテーマでリスクマネジメント教育を行っており、毎年、消防訓練を実施しています。同社は、BCPを策定する以前から、全社員参画で安全に対する意識を高める取組を進めてきました。
BCPの策定
同社は、BCPの必要性を認識した時期と同じくして、高石商工会議所を通じて大阪府商工会連合会のBCP策定支援事業のことを知り、昨年(25年)1月から約半年間で6回の支援を受けてBCPを策定しました。
BCPの策定時には、役員を含む管理部門に加えて生産工程を熟知する品質管理部門の社員が参画し、3人で取り組みました。各部門を巻き込み検討内容をスムーズにまとめる上では、3人が適切な人数でした。BCPの策定・運用で想定した危機的事象は、主に地震や津波でしたが、自然災害のほか火災や情報セキュリティー障害を含む、幅広い事象を想定しました。
供給責任を果たすまで1週間という期間を現実的なものにするため、技術交流のあるグループ会社での代替生産の相互協定を検討するなど、他社を巻き込んだ検討にも積極的に取り組みました。相互協定は、商圏を各地のグループ会社で分担しているため可能であったとも考えられますが、相互協定の責任を果たすためには、社内の生産体制だけでなく、自社の周辺環境にも目を向ける必要があることを気付かされました。例えば、近隣に大阪ガスの備蓄タンクが存在することや、内陸に通じる道が一本しかないなどの制約を認識し、初動対応の重要性に気付くことになりました。
BCP運用時の供給責任では、取引量の多い18リットル缶のラインの復旧を優先することにしています。一般缶ラインに関しても、18リットル缶ラインの復旧計画を基に水平展開し、早期に復旧できるよう努める方針です。
BCP運用上の課題と定着に向けて
同社のBCPは、取引先における供給責任の方針に沿って、実行可能性に配慮された内容であると考えられます。更に検討を要する課題の一つは、人材面のリスクを回避することです。工程上のメンテナンスに関するチェックシートはありますが、製造工程の共有を十分に図れていないため、初動対応で人材の安全を確保し、従業員が複数の工程を担える体制を整備することが課題です。
また、他社から仕入れている、持ち手や座金、PPバンドといった構成部品の確保も重要な課題で、今後は、仕入取引先に対して自社のBCPの方針を示した上で、具体的な対応策の検討を求めていくことにしています。
こうした課題への対応に向けて、まず、初動対応の具体化に取り組む予定です。従来の3名の検討メンバーに加えて各部門の業務に精通するメンバーが参画し、1週間という復旧目標を前提として具体的な検討と全従業員への周知・教育を同時に行う計画です。既に、全従業員がBCPの策定を知っていますが、今後は全員参画で、リスクを認識した経営に対する意識付けを図り、BCPの実効性を高める内容の充実を図る段階に進めていきます。このほか、築後約30年経過している工場の耐震化も必要ですが、ソフト面の対応に優先的に取り組む方針です。
BCPと企業経営
BCPの策定と運用は、全員が参画し全社一体となって取り組まなければならないため、内部コミュニケーションを円滑にする側面がみられ、今後、生産工程の改善やリスクマネジメント機能の向上など、経営面でプラスの効果が現れることも期待できると考えています。大阪府商工会連合会のウェブサイトには、同社がBCPの策定と運用に取り組んでいることが公表されていますが、BCPに関心を持った取引先から照会があるなど、取引企業間の信頼関係の構築にとっても良い影響があると考えています。
事例からの示唆・専門家からのコメント
同社は、食品用の18リットル缶、美術缶の製造・販売を営んでおり、堺泉北臨海工業地帯に立地する製造拠点は、従業者の出退勤や資材の納入、製品の供給に使用する交通経路が高石大橋一つしかないことが懸念事項でした。そこで被災時の“従業者の通勤手段の確保”及び“被災時でも供給責任を果たす”を目的としてBCP策定の取組みをスタートさせ、様々な分析の結果、上記目的を達成するには、“従業者の出退勤基準”を明確にし、“被災時における避難場所の確保”並びに“協力会社との相互協定の締結”が重要であることが分かりました。
“従業者の出退勤基準”については、連絡が取れない場合を想定し、安否確認手順の確立と、出社できない場合における従業者の行動指針を作成しました。次に“避難場所の確保”については、巨大地震発生後、高石大橋を渡り避難すると想定していましたが、高石大橋は標高が低く津波等の影響により浸水する可能性が高く、高石大橋を渡れなかった場合、津波予想時間を勘案すると自社へ戻る時間もないため、避難場所の見直しを行い、地域で設定されている“自社内一時避難所”を避難場所として全従業者へ教育を実施しました。今後、定期的に実施している避難訓練の際に、今回作成したBCPも含めた演習を実施しようと計画しております。また、同社は、阪神・淡路大震災を経験するなど、自然災害に対する危機意識が高く、周辺企業と共に地域の商工会議所等に対して、防波堤防設置の要望を出す等の活動を行っております。
今後の取組みにおいては、事業継続能力の更なる向上を図る為、周辺企業並びに地域の行政を巻き込んだBCPの取り組みを行っていくことが課題となります。
本支援制度の支援を終えましたが、引き続きBCPの取り組みを進めて頂き、更なるブラッシュアップが行われることを期待致します。